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2011年08月09日

誰でもの海〜35歳の原点 #9

ひと昔前の自分と向き合うのは気恥ずかしい。
それが自分で書いた文章を通してであるならなおさらのこと。
今日から始まる、シリーズ『35歳の原点』は、2003年の夏から冬にかけて琉球新報の
「落ち穂」に連載した、沖縄移住者のエッセーです。
いまから振り返っても人生最大の奈落の底から這い上がり、這い上がるのにちょっと疲れて
また埋没し、再び陽のあたる世界に戻るきっかけになった僕にとって思い入れの深いエッセーがこのシリーズ。
多分にセンチメンタルで、「オイオイいい加減にしろよ、おまえ35だろ!」って言われそうなくらいの青臭い
ロマンティズムが充満していますから、人によっては吐き気を催すかも知れません。
なので、青臭いのが苦手な方は素通りしたほうがいいでしょう。
どうしてもという方は是非お読み下さい。




誰でもの海〜35歳の原点 #9
画像:佐敷マリーナ跡地近くから望む与那原湾の夕景。



「誰でもの海」


 限りになく透明に近い青の世界。オゾンと空気と水の層。それらを通過して天から降ってくる光の分子。どこか宗教的な光のきらめき。音が発せられる源とそれを受け止める人の間には、空気ではなく海水があるから、音が直接、身体に響いてくる。奇妙な音の世界が胎内にいるような安堵感をもたらす。降りていくと、藍色に近い青の世界が、無音の中に広がっている。海で人
間は子宮に還るのだ。

 十年ほど前、慶良間の海に潜らせてもらった。それが沖縄の海との初めての出合い。

 先日、慶良間の向いの海でサンゴの移植事業が行なわれた。埋立地の開発成功事例として有名な北谷の海はサーフィンのメッカでもあり、多くのダイバーも訪れる。移植にはダイバーやサーファーの姿が少なくなかった。

 サンゴの苗は環境に負荷をかけない方法で育てられ、海に植えられる。植え付けをする前にリーフに小さな穴を開けなくてはならない。この作業は主に漁師に委託される。そして漁師はサンゴの密猟で得られるのと同じ収入を得ることができるそうだ。
平気で煙草を海に投げていた人の多くが、移植にかかわるようになってから、携帯灰皿を持つようになったそうだ。苗を植えた人は、移植後のサンゴの写真が入った感謝状を受け取ることができる。

 育てられた苗は、漁協や自治体やダイビングショップに卸される。最終的な経済負担は移植の参加者などが負担するように設定されている。栽培から移植まで、人の手が介在して、経済的な経路に乗った、極めて人為的な自然回復事業。人間も、そしてたぶん、自然も喜ぶだろう。損をする人や生きものはたぶんいない。考え出したのは世の中の現実に敏感な技術者である。

 環境自体が変わらなければ再生はあり得ない、という指摘もあるだろう。畑がしっかりしていなければ作物は育たない。そして、立派な畑でも種がなければ実りはない。

 しばらくたってから、大宜味村の塩屋湾近くの海を通りかかった。昔は稚魚の揺りかごだったとというこのイノーでは、埋め立てという事業が始まっていた。イノーは海の生きものの子宮でもある。






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Posted by 楽しい亜熱帯 at 06:42│Comments(0)35歳の原点
 
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